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名古屋高等裁判所 平成8年(う)135号 判決 1996年10月14日

本店所在地

愛知県海部郡甚目寺町大字森字流二〇番地

株式会社トヨタツ

(右代表者代表取締役 豊田辰夫)

本籍

愛知県海部郡甚目寺町大字新居屋字新居屋郷三四番地の二

住居

同県海部郡甚目寺町大字新居屋字善左屋敷二九番地

会社役員

豊田辰夫

昭和一九年五月八日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、平成八年四月二五日名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官亀井冨士雄出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人尾関闘士雄作成の控訴趣意書、控訴趣意書訂正書に記載のとおりであるからこれらを引用する。

一  理由不備、理由に食い違いがあるとの主張について

所論は、検察官が冒頭陳述の修正損益計算書により明らかにした被告人株式会社トヨタツ(以下「被告人会社」という。)の各事業年度のほ脱所得の内容は訴因となるから、修正損益計算書の形式にて全勘定科目を一覧できる方法で示し、勘定科目ごとに公表金額、犯則金額、差引修正金額を判示する必要がある。また、修正損益計算書により実際所得金額の計算過程を判示し、脱税額計算書により正規の税額の計算根拠と金額を判示すべきであるのに、原判決は、各事業年度の実際所得金額と申告所得金額、正規の税額、申告税額とほ脱税額のみを判示しただけであるから、原判決には理由不備、理由に食い違いの瑕疵がある、というのである。

しかし、修正損益計算書又は修正貸借対照表、ほ脱所得の内容、脱税額計算書は、検察官がほ脱事件の冒頭陳述で明らかにするのが通例であるが、これらにより明らかにされた個々の勘定科目ごとの公表金額、犯則金額、差引修正金額は攻撃防御の手段であり、これらが訴因となるとはいえない。そして、判決にあたり、修正損益計算書または修正貸貸借対照表により全勘定科目を示し、個々の勘定科目ごとの公表金額、犯則金額、差引修正金額を明らかにし、これらの各金額を集計して算出される申告所得金額、ほ脱所得金額、実際所得金額の計算過程を判示することが必要であるとはいえないし、脱税額計算書の実際所得金額から正規の税額を計算する過程を申告税額との差額を計算する過程を判示する必要があるとはいえない。

すなわち、個々の勘定科目は公表金額、犯則金額、差引修正金額につき、検察官は、冒頭陳述の修正損益計算書又は修正貸借対照表、ほ脱所得の内容によりほ脱所得の内訳を明らかにし、訴訟ではこれらをめぐって攻防がなされるとはいえ、起訴状には不正行為、実際所得金額、申告所得金額、正規の税額、申告税額、ほ脱税額を記載して公訴事実を特定すれば足り、実際所得金額の内訳を修正損益計算書又は修正貸借対照表により個々の勘定科目と公表金額、犯則金額、差引修正金額を示すことまで要求されていないし、これらの記載がないからといって訴因の特定に欠けるものではない。そして、実際所得金額の内訳が単純な事案では、修正損益計算書又は修正貸借対照表、ほ脱所得の内容によりこれを明らかにしない場合もあるから、冒頭陳述で明らかにしたときのみ個々の勘定科目ごとの右各金額が訴因となるとするのは疑問であるし、冒頭陳述でこれらを明らかにした後に訴因変更する際、個々の勘定科目と右各金額も補正しなければ訴因変更できないというのも不合理であり、所論には賛同できない。そして、判決に当たっても、ほ脱所得の内訳が単純なときや検察官が主張したほ脱所得の内訳に争いがないときに、実際所得金額、申告所得金額を認定するほかに個々の勘定科目と各金額までいちいち判示する必要性は乏しいし、ほ脱所得の内訳に争いがあるときでも、検察官主張どおりの内訳を認定するときには、検察官主張の実際所得金額を認定したり、争いのある勘定科目の公表金額と犯則金額(益金の除外金額、損金の架空水増し金額)を補足説明する方法により認定理由を明らかにすることができるし、検察官主張のほ脱所得の内訳と異なる金額を認定するときでも(実際所得金額が増加するときは除く。)、検察官主張と異なる事実を認定した勘定科目と裁判所の認定した犯則金額を判示することにより、認定理由を明らかにすることができるから、修正損益計算書又は修正貸借対照表を用いて個々の勘定科目ごとの右各金額を判示しなくても差し支えない。したがって、判決書にこれらを用いて個々の勘定科目と右各金額を判示しないからといって、理由不備の瑕疵があるとはいえないし、もとより理由に食い違いがあるとはいえない。

次に、実際所得金額の計算過程につき、修正損益計算書又は修正貸借対照表の個々の勘定科目と右各金額を前提に実際所得金額が算出されるところ、右の計算過程は訴因といえないし、勘定科目ごとの公表金額に益金の除外金額又は損金の架空水増し金額を加算し、損金の認容金額を減算して算出することが可能であり、判決にあたり修正損益計算書又は修正貸借対照表を用いてその計算過程を判示する必要があるとはいえない。また、正規の税額、脱税額の計算過程につき、これらの計算過程が訴因となるとはいえないし、正規の税額は実際所得金額や確定申告書に記載された事項などから機械的に計算でき、ほ脱税額も正規の税額から申告税額を控除すれば計算できるから、判決書に脱税額計算書を用いて判示する必要があるとはいえない。

ところで、原審の訴訟経過をみると、記録によれば、検察官は、第一回公判期日に、原判示各公訴事実の事業年度につき冒頭陳述書の修正計算書及びほ脱所得の内容によりほ脱所得の内訳を、脱税額計算書により正規の税額とほ脱税額の計算過程を明らかにし、第一五回公判期日には第二及び第三の公訴事実につき実際所得金額、正規の税額及びほ脱税額を減額する旨の訴因変更を請求し、冒頭陳述補正書で改めて当該事業年度につき修正損益計算書とほ脱所得の内容によりほ脱所得の内訳を、脱税額計算書により正規の税額とほ脱税額の計算過程を明らかにした、被告人及び弁護人は、第一回公判期日以来検察官主張の実際所得金額、正規の税額やほ脱税額を争ったが、原判決は、(犯罪事実)の第一では公訴事実の各金額を、第二及び第三では訴因変更後の各金額を認定し、(争点に対する判断)で被告人が争った点につき勘定科目に即して具体的な数値を用いるなどして補足説明し、冒頭陳述補正書の修正損益計算書及びほ脱所得の内容、脱税額計算書に記載の各金額を前提に実際所得金額を認定したことが明らかである。そうすると、原判決が所論指摘の各金額を認定するほかに、修正損益計算書により個々の勘定科目ごとの右各金額、実際所得金額の計算過程を、また、脱税額計算書により正規の税額とほ脱税額の計算過程を判示しなかったからといって、原判決に理由不備の瑕疵があるとか、理由に食い違いがあるとはいえない。論旨は理由がない。

二  事実誤認及び法令適用の誤りの主張について

所論は、原判決の各事業年度におけるほ脱所得の認定には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認及び法令の解釈適用の誤りがある、というのである。

しかし、記録及び証拠物を調査して検討すると、原判示の各認定は相当として是認することができ、所論指摘のような事実誤認や法令の解釈適用に誤りがあるとは認められない。以下、個別の所論に即して補足して説明する。

1  被告人会社の工事収入高について

所論は、被告人豊田辰夫(以下「被告人豊田」という。)は、被告人会社の取引先の三友商事株式会社(以下「三友商事」という。)の営業部長である磯村昇(以下「磯村」という。)から、約束手形金額の五五パーセントに当たる現金を磯村に返還する約束の下に、三友商事の被告人会社に対する工事代金名目で約束手形の交付を受けては右割合の現金を磯村に交付し、被告人会社は約束手形金額を工事収入として計上していた。しかし、右約束手形金額は被告人会社の工事収入ではないから、工事収入高からその合計額(平成元年一一月期七九四八万八〇八五円、以下平成を省略する。二年一一月期一億七六四一万六五九四円、三年一一月期一億一八六七万六〇八一円)を減額すべきである。仮にそうではないとしても、少なくとも磯村に返還した現金は工事収入ではないから、その合計額(元年一一月期は四三七一万八四四七円、二年一一月期は九七〇二万九一二七円、三年一一月期は六五二七万一八四五円)を減額すべきであるのに、原判決が被告人会社の工事収入高を是認したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認であり、かつ、法人税法二二条の益金に関する法令の解釈適用の誤りである、という。

しかし、関係証拠によれば、被告人会社が計上した工事収入高は正当であり、この点に関する(争点に対する判断)二の2の説示も是認することができる。すなわち、右証拠によれば、被告人会社は、三友商事から契約金額を定めて配管工事などを受注し、工事を終えた後請求書を提出し、三友商事から請求書に沿う額面の約束手形で支払を受けていたこと、三友商事の営業部長である磯村は、被告人豊田に対し三友商事が発注する工事のうち工事原価が高いものの発注額を通常の金額より高めに請求し、その代わり高めにした金額の一部を磯村に現金で渡すように求めたこと、被告人豊田は、三友商事が重要な取引相手であり、磯村がその営業部長であることからそれに応じることにし、磯村から電話やファクシミリで工事名と上乗せ金額を指示されると、通常請求する金額に右指示された上乗せ金額を加えた額を請求書に記載して三友商事に送付し、工事終了後三友商事からその請求金額に応じた約束手形の交付を受けると、金融機関で割り引いて上乗せ金額の約五五パーセントに相当する現金を準備し、被告人会社に来た磯村に渡すことを繰り返した、被告人会社は、三友商事から受け取った約束手形金額を関係帳簿に工事収入と記帳し、これに基づいて決算して確定申告することにしたが、被告人豊田は右方法では上乗せ金額分だけ所得が増加するため、外注費を水増しすることにした、一連のほ脱が発覚した後、被告人会社は、三友商事から右上乗せ分の返還を求められなかったし、三友商事にその返還を申し出なかったことが認められる。

右事実関係によれば、被告人会社が三友商事から受注した個別の工事契約金額は、磯村が指示した上乗せ分を加えた金額であり、被告人会社の三友商事からの工事収入額は、三友商事から受け取った約束手形金額であるから、これらを基に被告人会社が公表計上した工事収入高に誤りはない。そうすると、磯村が指示した上乗せ金額分あるいは磯村に返還した現金分を工事収入高から減額すべきとの所論は、到底採用できない。

2  外注費の水増し計上について

所論は、名豊設備企画こと渡邉晃明(以下「渡邉」という。)及び北村工業こと北村薫(以下「北村」という。)は、被告人会社から工事を受注していたが、受注工事についての渡邉の記憶あるいは北村の妻がノートに記載していた工事金額の信用性は乏しいから、原判決がこれらから両名に対する外注費の水増し金額(元年一一月期七一五九万二八六四円、二年一一月期一得五八八五万六三〇一円、三年一一月期一億〇六八九万二一一八円)を認定したのは判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認である、という。

しかし、この点に関する(争点に対する判断)二の1の(二)及び(三)の認定判断は、関係証拠に照らし相当として是認することができる。若干補足すると、渡邉作成の「工事額一覧表」は、渡邉が被告人会社に提出した請求書を見ながら実際に受注した工事と工事金額を記載したものであり、渡邉が実際に工事を実施した工事名とその金額に誤認の疑いはないし、被告人豊田の工事発注の認識とも大半合致しており、右記載の信用性は高いというべきである。次に、北村の妻が記載していたノート(売上帳と表題のあるもの、当審平成八年押第二七号の一一)は、取引相手と金額などを月単位で記載した簡単なものであるが、経理を担当していた北村の妻が業務の過程で継続的に記載していたもので、被告人会社関連部分のみ事実と異なる記載をした疑いもないから、右記載には高度の信用性が認められる。これらと原判決指摘の点を併せ考慮すれば、渡邉作成の「工事額一覧表」や北村の妻が記載したノートはいずれも信用することができる。そして、右各証拠から実際発注工事金額を認定し、被告人会社の公表発注工事金額から実際発注工事金額を控除して消費税込の水増し工事金額を算出し、これから消費税額を控除し、それぞれの水増し工事金額を認定したことにつき事実誤認はない。

3  支払手数料について

所論は、被告人豊田は、磯村の前記指示に従うと被告人会社の工事収入高が増加し所得が過大になるため、渡邉及び北村に工事金額を水増しして発注し、水増し金額の一割をその謝礼として交付したが、右謝礼は被告人会社の業務遂行に関連する支出であり、被告人会社の損金に該当するのに、原判決が謝礼(元年一一月期二五八万〇五八四円、二年一一月期一六九八万〇九七三円、三年一一月期一一七九万七四七八円)を脱税経費との理由で損金に算入しないのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認であり、かつ、法人税法二二条の損金に関する法令の解釈適用の誤りである、という。

しかし、この点に関する(争点に対する判断)二の3の認定説示は、関係証拠に照らし相当として是認することができる。若干補足すると、被告人会社の三友商事との取引の公表計上処理は、前記のとおり正当であるし、被告人会社の両者に対する外注工事の水増しは前認定の理由によるものとはいえ、謝礼は外注費の水増し計上という不正な会計処理に協力したことに対する対価として支出されたものであるから、右謝礼の支出を損金に算入することを否定した原判決は正当であり、原判決の事実認定及び法令の解釈適用に誤りはない。

4  消費税について

所論は、前記1項の三友商事に対する工事収入高が減額するのに伴い、被告人会社の消費税の金額も変動するのに、この点を看過した原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法人税法三八条、二二条一項の解釈適用の誤りがある、という。

しかし、前記のとおり三友商事に対する工事収入高は正当であるから、消費税額にも変動がないことは明らかである。

右のとおり原判決には事実誤認及び法令の解釈適用の誤りもない。論旨は理由がない。よって、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土川孝二 裁判官 柴田秀樹 裁判官 河村潤治)

平成8年う第一三五号

控訴趣意書

被告人 株式会社トヨタツ

同 豊田辰夫

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、控訴の趣意は次のとおりである。

平成八年八月一三日

右弁護人 尾関闘士雄

名古屋高等裁判所 御中

第一点 原判決には、刑訴法第三七八条四号前段の判決に理由を附せず及び同号後段の理由のくいちがいの違反がある。

1 刑訴法第三三五条は、有罪判決に示すべき理由として、罪となるべき事実を示すべきことを定めている。

原判決には、罪となるべき事実が示されておらず、よって、判決に理由を附さない、かつ、理由のくいちがいがある。

2 有罪の判決における「罪となるべき事実」の判示としては、刑罰法令の各条の構成要件に該当すべき具体的事実を、該構成要件に該当するかどうかを判示するに足る程度に具体的に明白に(最判昭和二四、二、一〇刑判集三、二-一五五)に判示されなければならないものである。

3 法人税法第一五九条は、偽りその他不正の行為により法人税を免れ、と規定している。

従って、その犯罪構成要件は、偽りその他不正の行為と、その結果としての脱税額の存在である。

右脱税額とは、実際所得金額に税率を掛けた正規脱税と、申告所得金額に税率を掛けた申告税額との差額である。

4 しかし、右の実際所得金額とは、具体的な行為でも、事実でもなくつまり、有形的な事象として現実に認識し得るものではなく、また、有形的な事象に対する直接の評価額でもなくて、一定の仕組みにより算出される計数である。

これは一定期間(事業年度)における経済活動により生じた結果たる純利益の金額である(司法研究、税法違反事件の処理に関する実務の諸問題二頁)。

法人税における所得金額は、同法第二二条に、各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とすると規定している。

つまり、所得金額とは、一事業年度の益金から損金を減算した結果の数値である。

5 法人税逋脱事犯においては、具体的事実(行為)としては益金、損金について、被告人のなした、偽りその他不正の具体的事実(行為)である。

一事業年度内の益金、損金も多岐に亘り、かつ、多数であるので、経理の実務では一般に公正妥当と認められる会計基準(同条四項)により、これを勘定科目に分類、集計して計算される。

従って、法人税逋脱事件においては、その勘定科目ごとに、実際金額と申告金額とを示し、逋脱金額を具体的に明らかにしなければならない。

右のとおり、本件逋脱事件においては、勘定科目は訴因である(最判昭和四〇、一二、二四刑集一九-九-八二七)(東京地裁昭和五五、三、一〇判例時報九六九)。

法人税逋脱事件においては、勘定科目により区分された益金、損金を修正損益計算書もしくは修正貸借対照表の形式にて示して、罪となるべき事実を判示しなければならないものである。

6 原判決は、理由(犯罪事実)として、第一、第二、第三のそれぞれにおいて、実際所得金額、正規の法人税額、申告税額の差額を判示するのみであり、実際所得金額が具体的に算定されたことを示すべき修正損益計算書もしくは修正貸借対照表は判示されていない。

また、本件逋脱税額の計算根拠としての税額計算表が判示されてもいない。

右原判決の判示では刑事訴訟法第三三五条の罪となるべき事実が示されたものとは到底云い難いものである。

因みに、前記最高裁判例の第一審判決及び前記東京地裁の判決においてはいずれも修正損益計算書が判決の一部として判示されている。

7 犯罪は、有責、違法な行為であるとされる。犯罪成立の第一の要素は行為であり、行為なくして犯罪なし、である。

判決理由の罪となるべき事実を示すには、先ず行為を明示せねばならない。

単に、計算結果の数値を書いただけでは、罪となるべき事実を示したこと、にはならない。

原判決は、刑法及び刑事訴訟法の基本にもとるものと云わざるを得ない。

法人税逋脱罪においても、罪となるべき事実とは、第一に、被告人の行為であるから被告人が該事業年度中において、益金を過少としたか、損金を過大にしたか、また、その双方か、これらの逋脱行為を具体的に示さなければならないものである。

法人税逋脱罪においては、起訴状記載の訴因としては、単に数値のみしか記載されていないけれども、検察官の釈明あるいは冒頭陳述によって具体化された個人の逋脱所得の内容は訴因をなすものである(前記最判調査官解説二四七頁)。

訴因は勘定科目にて示すべきである。

公正妥当な会計基準では、益金、損金が全て勘定科目に分類集計されるから、判決では被告人の逋脱行為がどの勘定科目において行われたかを示すことが不可欠であり、そして、全勘定科目が一覧できる修正損益計算書が不可欠となる。

第二に、益金勘定科目の合計額から損金勘定科目の合計額を控除して、実際所得金額を算出して示さなければならない。

この計算も修正損益計算書で示さなければならない。

この修正損益計算書なくしては、逋脱所得金額は算出できない。

これは逋脱の勘定科目の逋脱数値のみでなく、これと関連して数値が変化する勘定科目が存するからである。

本件においても判決が認定した逋脱所得金額は、

元年一一月期 三六、九七九、三〇三円

二年一一月期 六四、一二三、二八六円

三年一一月期 三九、八八七、二二八円

であり、ところが、被告人が過大に水増計上した外注工事費は、

元年一一月期 七一、五九二、八六四円

二年一一月期 一五八、八五六、三〇一円

三年一一月期 一〇六、八九二、一一八円

である(冒頭陳述補正書)。

右の水増外注工事費は、逋脱所得税額は全く異なる数値であり、この両数値がどのように関連するのかは、判決上不明である。

右水増外注工事費と逋脱所得額の関係及び実際所得金額の算出過程は、修正損益計算書を示さなければ全く不明のままである。

第三に、右の実際所得金額に税率を乗じて税額を算出して示さなければならない。

この計算は税額計算表で示さなければならない。

右の第一、第二、第三を判決において罪となるべき事実として判示するには、修正損益計算書、税額表の形式ですることが不可欠である。

法人税法第一五九条一項の法人税逋脱罪の構成要件を充足するところの罪となるべき事実を示すには、修正損益計算書及び税額計算書がなくてはならないものである。

以上のとおり、修正損益計算書及び税額計算表のない原判決は、罪となるべき事実の判示がなく、よって、判決に理由を附せず、かつ、理由にくいちがいがある、に該当するものである。

第二点 原判決には次のとおり法令の解釈、適用に誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

原判決には次のとおり、法人税法第二二条の解釈、適用に誤りがある。

一 原判決は同条の益金についての解釈、適用に誤りがある。

1 法人税法第一五九条一項の法人税逋脱罪は、逋脱行為により法人税を免れるものであるが、逋脱法人税額を算出するためには、逋脱所得税額が認定されなければならない(法人税法第二一条)。

法人税法における所得は、益金の額から損金の額を控除した金額である(同法第二二条一項)。

従って、右益金は、法律上の概念であり、益金の解釈に誤りがあればこれは法令の解釈、適用の誤りとなる。

2 原判決では、公訴事実第一、二、三においていずれも本件逋脱について、判決に修正損益計算書の欠缺のため、各期の益金の表示はないが、検察官の冒頭陳述補正書の修正損益計算書を判決は認定したものとみなして(以下同じ)論述する。

右各期の損益計算書によれば、主たる益金はいずれも工事収入高である。

右工事収入高は以下に述べるとおり益金でない金額が含まれており、減額修正されるべきである。

3 被告人豊田辰夫は、取引先である三友商事株式会社の営業部長・磯村昇からの要請により、工事代金名目にて、約束手形等(以下単に交付手形金等という)を、その金額の五五%の割合の現金を返還するとの条件にて、交付を受けたものである。

右交付を受けた手形金等は、工事収入金ではないものであり、益金ではないものである。

一般に法人が受取った金銭その他経済上の利益が全て益金となるとの解釈は誤りである。

受取った金銭等が、返還を義務付けられたものである場合には、それは借入金、預り金、仮受金等であり、益金でないことは社会常識であり、公正妥当な会計基準である。

右磯村から交付を受けた右交付手形等は、右磯村の不法な目的に被告人豊田が協力する形で、被告人会社の帳簿を通過されただけのものである。

因みに、右磯村は、右交付手形金等に関する返還金の受領にて所得税逋脱罪として起訴され、有罪の判決を受けたものである。

以上のとおり、右磯村から被告人豊田への手形金等の交付は、右磯村の脱税目的に被告人豊田が協力しただけの行為であり、被告人会社の益金とは到底なり得ないものである。

4 本件第一、二、三の公訴事実における各年度の交付手形金等の金額の算出は次のとおりである。

磯村への返還金

元年一一月期 四三、七一八、四四七円

二年一一月期 九七、〇二九、一二七円

三年一一月期 六五、二七一、八四五円

右交付手形金等の金額は、同被告人が右磯村に返還した金が五五%であるので、右返還金を〇・五五で除すと、各年度の返還金及びこの一〇〇%金額は次のとおりとなる。

元年一一月期 七九、四八八、〇八五円

二年一一月期 一七四、六一六、五九四円

三年一一月期 一一八、六七七、〇八一円

5 右磯村からの交付手形金等は法人税法上の益金には該当しない。

法人税法における益金とは、同法第二二条二項によれば、資産の販売、資産の譲渡、役務の提供、無償による資産の譲受け、その他取引に係る収益と規定されている。

右の五五%の金額を返還することを条件とする右交付手形金は、同条二項のいずれにも該当しないものである。

6 よって、右交付手形金等の額を各年度の工事収入高から控除すると実際工事収入高は次のとおりである。

元年一一月期 二九一、六一五、五三五円

二年一一月期 三二三、八五二、四九一円

三年一一月期 三四一、八一二、九四六円

右のとおり、工事収入高を修正すると、各事業年度の益金は次のとおりとなる。

元年一一月期 三〇八、〇六五、九五九円

二年一一月期 三三七、一二二、四一一円

三年一一月期 三七二、三七一、七六三円

7 右と異なる原判決の各事業年度の益金の認定は、益金についての法令解釈適用をあやまったものである。

8 (予備的主張)

(仮に、磯村からの交付手形金等の一〇〇%が益金でないとの主張が認容されない場合)

右磯村からの交付手形金は、その五五%を返還することを義務付けられたものであるから、右五五%を控除した四五%相当の金額のみが被告人会社の益金になるべきである。

右交付手形金等の各年度の内の五五%(磯村への返還金)の金額は次のとおりである。

元年一一月期 四三、七一八、四四七円

二年一一月期 九七、一二七、五九四円

三年一一月期 六五、二七一、八四五円

右磯村への返還金を右事業年度の工事収入高から減算すると次のとおりである。

元年一一月期 三二七、三八五、一七三円

二年一一月期 四〇三、三二九、五八四円

三年一一月期 三九五、二一七、一八二円

よって、益金は次のとおりとなる。

元年一一月期 三四三、八三五、五九七円

二年一一月期 四一六、五〇九、八七八円

三年一一月期 四二五、七七五、九九九円

右と異なる原判決の認定は誤りである。

二 原判決には法人税法第二二条の損金についての解釈、適用に誤りがある。

1 被告人会社は、渡辺晃明及び北村薫に対し手数料として次のとおり支払いをなした。

元年一一月期 二、五八〇、五八四円

二年一一月期 一六、九八〇、九七三円

三年一一月期 一一、七九七、四七八円

右支払金は、本件各事業年度の所得計算において、損金として益金より控除されるべきものである。

しかるに、原判決は右渡辺及び北村に対する支払を損金とは認定しなかった。

2 法人税法第二二条三項は、損金とは、売上原価、完成工事原価、販売費、一般管理費、その他費用、損失(資本取引を除く)であると規定している。

法人税法においては、該支出が会社業務遂行に関係のある支出であれば、同条三項一ないし三に該当するものとして損金になるものである。

脱税に関する支出を除外する旨の規定は存在しないものである。

3 仮に、脱税経費は損金とならないとしても、本件の右渡辺、北村に対する支払は、いわゆる、脱税経費には該当しないものである。

一般に脱税経費は、所得を秘匿する目的で謝礼を支払うものである。

しかるに、右支出は、磯村からの本件交付手形金等が益金とされ所得が過大になることを避けるための支出である。

一般の脱税経費とは性質を異にするものである。

右支払は磯村の交付手形金等との関連で考察すべきものであり、右交付手形金等が益金とされるならば、右支払も損金とされるべきものであり、右支払の反社会性は小さく、公序良俗に反するものでもない。

よって、右支払は損金とすべきである。

4 これら損金を認定しなかった原判決には法人税法第二二条の損金の解釈、適用を誤ったものである。

三 原判決は、法人税法第三八条、第二二条一項の解釈、適用に誤りがある。

1 被告人会社は消費税法上の課税事業者である。

被告人会社が各事業年度に納付すべき消費税額の大小は左に述べるとおり被告人会社の所得金額を増減させ、法人税額を増減させるものである。

2 消費税法は、国内において事業者が行った資産の譲渡等には消費税を課する(同法第四条)と規定し、譲渡等は、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう(同法第二条1項8号)。

被告人会社では工事収入高が課税資産の譲渡等であり、これに三%を乗じたものが消費税額であり、これより仕入消費税を控除したものが納付消費税額となる仕組みである。

3 磯村からの交付手形金等は、消費税法上の資産の譲渡でも、役務の提供でもない。

従って、被告人会社が納付すべき各期の消費税額は前述のとおり工事収入高が変動すればこれに応じて変動するものである。

法人税における所得の計算において納付消費税は、税抜経理の方式では、益金(工事収入高)からの減算、税込経理方式では損金(公租公課)に加算される(法人税法第三八条)ものである。

4 右のとおり、納付消費税が益金、損金に変化を及ぼし、その結果被告人会社の実際所得金額が変化するものであり、正規法人税額も変化するものである。

5 右納付消費税の変化を看過してなされた原判決は、法人税法第三八条、第二二条一項の解釈、適用を誤ったものである。

第三点 原判決には次のとおり事実の誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

1 本控訴趣意書第二点において述べた益金及び損金の解釈、適用の誤りが法令の解釈、適用の誤りでないとすれば、その誤りは事実の誤認である。

法人税逋脱罪において、益金、損金の事実誤認に誤りがあれば、所得金額に誤りが発生し、ひいては税額に誤りを及ぼすこと明らかである。

2 原判決は、被告人が渡辺及び北村に対する架空の外注費を、

元年一一月期 七一、五九二、八六四円

二年一一月期 一五八、八五六、三〇一円

三年一一月期 一〇六、八九二、一一八円

と認定しているが、右認定は誤りである。

原判決は、北村への架空外注費額を北村薫の妻の記載していたノートを基礎にしているが、そのノートの記載は信用性に乏しいものである。

渡辺は、自己の記憶にて、被告人会社との取引の内から、架空と真正なものとを区別できたとするが、その信用性は乏しいものである。

右のとおり、北村、渡辺への架空外注費の金額は確実性に乏しいものであり、それを基礎にしてなしたその後の逋脱所得額の計算も不正確なものと云わざるを得ないものである。

以上

平成八年(う)第一三五号

控訴趣意書訂正書

被告人 株式会社トヨタツ

同 豊田辰夫

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、先に提出した控訴趣意書につき誤記があるので次のとおり訂正する。

平成八年八月一六日

右弁護人 尾関闘士雄

名古屋高等裁判所 御中

1 控訴趣意書四枚目表九行目の

逋脱所得税額とあるのを、

逋脱所得金額と訂正する。

2 同六枚目裏九行目

各年度の返還金及びこの一〇〇%金額とあるのを、

各年度の返還金に対応する交付約束手形の金額と訂正する。

3 同六枚目裏一二行目、一三行目

イ 二年一一月期 一七四、六一六、五九四円とあるのを、

二年一一月期 一七六、四一六、五九四円と訂正する。

ロ 三年一一月期 一一八、六七七、〇八一円とあるのを、

三年一一月期 一一八、六七六、〇八一円と訂正する。

4 同七枚目裏一三行目

二年一一月期 九七、一二七、九五四円とあるのを、

二年一一月期 九七、〇二九、一二七円と訂正する。

5 同八枚目表四行目

二年一一月期 四〇三、三二九、五八四円とあるのを、

二年一一月期 四〇三、二三九、九五八円と訂正する。

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